*08.ライオンの向こう

「ライオンが見たい。」
3年前、君はそう言った。
あの鬣(たてがみ)が艶やかで、肉を食いちぎる様が好きだと言った。
「見にいこうよ。」
僕たちはいつも待ち合わせをする場所がある。
ケーキ屋の向かいの、たばこ屋の横にある小さな公園。
次の日の朝、そこで会う約束をした。
駅に一番近くて、静かな場所だから。
「ライオン以外は何が見たい?」
「んー、そうだな。キリンかな。」
「どうして?」
「草を食べるとき、少し怖いから。」
「変なの。」

渡った時だったらしい。
それ以来、僕はこの横断歩道を渡らないようにしている。
ライオンもキリンも、二度と見ない。


(写真:2号/言葉:1号)




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